公益法人のガバナンス有識者会議(中間とりまとめ)へのコメント

「公益法人のガバナンスの更なる強化等のために(中間とりまとめ)【素案】」
を巡って

2020年8月24日

公益財団法人 助成財団センター 理事長 山岡義典

この8月5日に、第8回の「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」が開かれ、「(中間とりまとめ)【素案】」について意見交換が行われた。議事録は未だ公表されていないが、熱心な、あるいは厳しい意見も交わされたことであろう。その【素案】が、内閣府の公益認定等委員会のホームページに掲載されているので、有識者会議でヒアリングを受けた立場の者として、目通してみた。
【素案】はあくまで事務局が作成した叩き台にすぎない。会議での意見交換にもとづいてすでに多くの修正・加筆が行われつつあることであろう。それをもとにさらに8月31日に開催予定の会議で磨きがかかり、成案に近づくものと思われる。今の時点でその叩き台に言及するのはどうかとも思うが、公益法人の運営に携わっている立場から見ても、ヒアリング時に意見を述べさせていただいた立場から見ても、納得のいかない箇所が結構多い。多くの公益法人関係者にも確認してほしいと思い、私が気になった1点に限り、ここで述べさせていただきたい。

この【素案】はガバナンス上の13の不適切事例(不祥事)を示しながら論述されている。一見して「なるほど」と納得しながら読み過ごすのであるが、よく読み返すと、全く説得力のない怪しい話になってくる。13事例のうち5事例は「(2)会計監査の義務付け範囲の拡大」P.15-19で紹介されているので、その進め方を見ておきたい。その文脈は下記のようなものである。
1.公益法人は、負債50億円以上、収益1,000億円以上、費用・損失1,000億円以上のいずれかに該当する場合、会計監査人の設置が義務付けられている。
2.会計処理の不適切な事例が5件示され、いずれも上記の要件を満たしていないため会計監査人を設置していなかったという。
3.2015(平成27)年4月以降、会計監査人を設置していた法人で、会計処理に内閣府から報告徴収や勧告を受けたのは2法人と極めて少数となっている。
4.2018(平成30)年時点で、会計監査人を設置しているのは350法人、全9,561法人に占める比率は3.7%と極めて限定的となっている。(会計監査人を設置していないのは9,211法人になる)
この後で社会福祉法人や学校法人の現状や動向を説明し、「会計監査人の義務付け範囲を拡大すべきである」との結論が導かれる。
ここでは1~4の論理展開を確認しておこう。まず会計監査人の設置された350法人についてみると報告徴収や勧告を受けたのは2法人であるから、その割合は0.57%である。一方会計監査人を設置していない9,211法人についてみると不適切な事例は5法人であるから、その割合は0.05%である。「報告徴収や勧告を受けた法人」と「不適切な事例」を同列に比較していいかどうか分からないが【素案】では同列に扱っているので比較可能とすれば、それぞれの割合は0.57%と0.05%になる。割合に目を向けると(数でみれば5に対する2で確かに少数ではあるが)、前者(会計監査人アリ)を後者(会計監査人ナシ)より「極めて少数」と言われても、小学生でも納得しないだろう。ましてやこの論理だけからは「会計監査人の義務付け範囲を拡大すべきである」との結論に導かれることはありえない。
最多の事例を用いて語られた(いわば今回の提案の中核かと思われる)内容がこうであるから、他の少ない事例で語られた内容は、殆ど説得力を持ちえない。

以上はピンポイントで個人的に論述の危うさを示したものであるが、助成財団センターでは公益法人協会とさわやか福祉財団と共同して、「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議の「中間とりまとめ【素案】」に関する意見」を8月21日付けで発表した。【素案】全体に関する問題について次の5点を指摘したものである。
1.本来法人のガバナンスというものは、法人の持続的成長や社会における組織の存在意義の向上のため法人自ら考えて、自ら取り組むべき性格の問題であるにもかかわらず、そのことが十分認識・考慮されていない。
2.仮に不祥事への対策にフォーカスを当てる場合であっても、その前提として不祥事の
実態の調査・分析がなされるべきであるが、それが十分になされておらず、また対処方法として有効とされる提言内容についても、その有効性の確証もなされていない。
3.法人のガバナンスにおいて、各種の制度の変更や改正よりは効果のあるとされている、透明性の推進や法人による自主的な取組みの促進・支援については、そのとりあげる順序は第一番であるべきである。
4.素案の提言や考え方の中には、現在まで公開された議事録を見る限り、委員間において議論が行われていないものがあり、また公益法人から行われたヒアリングにおける意見がほとんど反映されていないように見える。
5.最後に素案の文章についてであるが、一部において感覚的であったり過剰であったりするものが散見される。
すでにお読みの方もおられると思うが、私の指摘と合わせてこの問題提起も熟読いただければ幸いである。

次回、8月31日の有識者会議では、このような観点についてもしっかりと議論してほしいと切望する。結論が一見正しいとしても、そこに至る論述に誤りがあれば、その政策は誤りである。次回には「中間案」としてまとめられ、パブリックコメントに付されると聞いている。
助成財団等を含む公益法人の関係者には、単なる結論だけでなく、そこに至る論述の妥当性、正しさにも眼を配って、多数の忌憚ないコメントを提出してほしい。