前理事長メッセージ

JFC VIEWS 103号 巻頭言:現在と未来を見詰めながら

4,520人-全国最多更新。1,337人-東京都最多更新、しかも900人台から4段飛びの1,300人台へ。2020年を総括するような、大晦日の新型コロナの1日感染者数だ。その一夜明けての2021年の始まり。最多更新を繰り返し、7日には首都圏1都3県に緊急事態宣言。新年を寿ぐ言葉がない。その中での苦渋の新年の挨拶をお許しいただきたい。
昨年秋には、感染力が一層強い変異種が英国に現れた。すでに日本にも上陸。大きな不安。一方、各国でワクチンの迅速な開発が進み、昨年暮れには初の接種が始まった。間もなく2月中には日本でも。大きな安心。この不安と安心の2つの流れが、今年は私たちの周りを渦巻くはず。その乱流の中でこそ、平衡感覚・忍耐・平常心が何よりも大切だ。不安に陥り過ぎることなく、安心に気を緩めることもなく、心を落ち着かせて、この1年を共に歩みたい。
1年先には、コロナ後の日本社会、さらには国際社会の姿も見え始めてくるはず。会社、学校、病院といった、現在の社会の基幹の部分を担っていた制度のあり方、そして通勤、買い物、旅行といった日々の暮らしを形作ってきた慣行のあり方は、大きな変化が予想される。人がリアルに動き集まるという当たり前とみなされてきた事は、最早当たり前ではない。本当にそれでいいのか、それでは心がもたない。オンラインの強みを活かしながらも、感染なきリアルの領域を回復すべく、この1年を共に歩みたい。
遠くない将来、コロナ危機のトンネルは必ず抜ける。その暁には、かつての姿に戻す部分も多々ある一方、私たちが経験している変化が日常の中に根付き、新しい社会の骨組みを作ることも十分あるはず。感染症の波を潜り抜けた後に社会の姿が変わった例は、ヨーロッパの中世を終わらせたペストをはじめとして数多い。この大きな文明の変化に対しても目を凝らしつつ、耳を澄まして、この1年を共に歩みたい。
同時に目を配らなければいけないのは、この大きな変化は多大な痛みを伴うこと。コロナ危機以前、人は自由に移動し、自由に出会うことで経済と社会を回してきた。これに急ブレーキをかけた結果の痛みは、誰が担うのか。最も担うのは、社会的に最も弱い立場の人たち。そしてさらに新たな格差に苦しむ人たち。その人たちへのしわ寄せがもたらす痛みに思いを馳せ、必要な手を差し伸べながら、この1年を共に歩みたい。
助成財団には、このような直近の身近な取り組みとともに、社会が生まれ変わっていくイメージを先取りし、その中の良き芽を発掘し、育てることが求められる。2021年に助成財団がなすべきことは、コロナ禍の混乱を乗り越え、現在と未来の両面を見詰めながら大胆に助成活動を行うことである。その積み重ねの結果として、助成財団は新しい価値を創り出し、長期的な社会の信頼を得ていくことになろう。そのためにも、従来とは異なる新しい多元的な財源の開発も重要になってくる。

よい年にしましょう。