「学校法人のガバナンス改革に関する意見」に対する声明について (2021.12)

「学校法人のガバナンス改革に関する意見」に対する声明を発表

学校法人のガバナンス強化については、文部科学省の学校法人ガバナンス改革会議(以下「改革会議」)が、2021年12月3日に「学校法人ガバナンスの抜本的改革と強化の具体策」を取りまとめ、公表しています。その後、2022年1月7日に、学校法人制度改革特別委員会(以下「特別委員会」)が文部科学省内に設置、1月12日に第1回会議が開催され、新たに検討がスタートしています。
 助成財団センターとしては、公益法人や社会福祉法人に続く、学校法人のガバナンス強化の検討であり、広義の公益法人のガバナンス強化として注視しており、当センターが参画する、公益法人協会の委員会である民間法制・税制調査及び法制委員会、コンプライアンス委員会での検討・協議を重ねてきました。
 今般、「改革会議」の取り纏めの公表を受け、(公財)公益法人協会及び(公財)さわやか福祉財団の2団体と連名で別添のとおり声明を発表いたしました。
今後「特別委員会」からの提言が、同じ 公益を追求する仲間として民間非営利活動の公益法人の将来に明るい希望を持たせる内容となるよう、「声明(意見書)」(別添)にまとめ、文部科学省はじめ関係各方面に提出しています。
 尚、一昨年の「公益法人ガバナンスの更なる強化」に対する意見書と同様、(公財)助成財団センター、(公財)公益法人協会及び(公財)さわやか福祉財団の3団体と連名としています。

2022(令和4)年1月19日

学校法人のガバナンス改革に関する意見

公益財団法人公益法人協会
理事長 雨宮 孝子
公益財団法人さわやか福祉財団
理事長 清水 肇子
公益財団法人助成財団センター
理事長 山岡 義典
(以下公益法人協会内検討委員会)
公益法人法制委員会
委員長 片山 正夫
公益法人コンプライアンス委員会
委員長 田中 皓

<はじめに>
学校法人ガバナンス改革会議(以下単に「改革会議」という)は、去る令和3年12月3日に「学校法人ガバナンスの抜本的改革と強化の具体策」を文部科学大臣あてに提出した。その直後の本年1月7日には、学校法人制度改革特別委員会(以下単に「特別委員会」という)が文部科学省内に設置され、1月12日に第1回会議が開催された。
 私共は、公益法人として同じ民間の非営利活動を担っている立場から、この改革会議の結論に対し重大な疑念を抱いている。新たに設置された特別委員会において、これらの問題点が解消され、同じ公益を追求する仲間として民間非営利活動の将来に明るい希望を持たせる内容の提言となることを強く要望するとともに、それについて具体的意見を申し上げるものである。

1.改革会議の結論の問題点
(1)ガバナンス改革と銘打っているが、私立学校における不祥事ばかりが取り上げられ、ガバナンスに本来期待される前向きの目的や効果・成果についての議論が(少なくとも最初の段階では)されず、最後に一般論として触れているにとどまること。

(2)ガバナンスの理想を株式会社や公益法人の制度を唯一のモデルとしており、学校法人にふさわしいガバナンスとは何かといった根本的に必要かつ重要な検討がなされていないこと。

(3)ガバナンス改革の中心となっているものは、評議員会の権限の強化であるが、同じ評議員会制度を持つ私共公益法人の経験からみた問題点等が何ら解決されていないこと。(次の2で詳述する。)

2.評議員(会)制度の問題点
 改革会議の結論のモデルとなった公益法人制度の評議員(会)制度については、この制度を実際に運用している私共公益法人の関係者としては、次のような問題点が内在していると考えている。

(1)その最大のものは、評議員の法人における存在の正統性(legitimacy)の問題であり、何故評議員(会)が強力な権限を保有できるかという理由付けの問題である。国会議員であれば、国民の代表者として選挙で選出されており、社団法人の理事であれば、その成立の基盤である社員(総会)において選ばれている。評議員については、その基盤がなく、従ってその選出方法も法律に規定されておらず、定款において各法人が定めることとなっている。

(2)2008年の公益法人制度改革においても、この問題は当然のことながら意識されたが、未解決のままであり、関係者において非充足感として底流に残されており、時々マグマのようにその不満とそれに伴う理事(会)との確執等の問題が噴き出ている。加えて、現行の一般法人法においては、高度の権限を持ちながら、評議員が殆ど責任を負わないという法律構成になっており、益々その不満足感が否めないものとなっている。

(3)改革会議の提言では、評議員(会)に責任追及の訴えを認めることとなっているが、上述(1)のとおり、その存在の正統性に問題のある評議員にどうしてそこまでの権限を認めるのか、またその機能や効果は何か等について納得できる説明を欠いている。

(4)なお、以上に関して学校法人のガバナンスにおいて、公益法人と同じモデルを使うことの妥当性も考えるべきであり、改革会議においては、法人の目的はそれぞれ違っていても、ガバナンスの手法は一つであるという考えが指導的であるようであるが、目的が違えば手段が異なるというのが一般的な考えではないかと思われる。学校法人と公益法人では、公益活動という点では同一であるが、そもそも社会的な役割が異なり、法人設立の動機や歴史も違い、そのステーク・ホールダーの複雑さも比較にならない。従って、学校法人のガバナンスを検討するにあたっては、公益法人制度のコピーということではなく、上記の差異を充分考慮に入れた適切な方法を考えるべきと思料する。

3.おわりに
 以上に加えて、次の論点を特別委員会の検討で考慮されることを希望する。
(1)まず、特別委員会の結論(乃至は仮結論)に対するパブリック・コメントの実施である。改革会議においても、当初からそれは予定されていたが、委員の一部の強力な反対により、実行されなかった。国民の意見を聞くといういわば情報公開と同様の機能を持つものであり、当然のことながら実施されたい。申し上げるまでもないが、ガバナンスを効果あらしめるのは、実態を広く国民やステーク・ホールダーに情報公開することというのが最近の常識である。その意味から特別委員会の議論も、引き続きYouTube等により公開されたい。

(2)次に関係者からのヒアリングの範囲の拡大である。改革会議ではそれが限定されていたが、特別委員会では、学校法人という広範なステーク・ホールダーを抱えている組織であることから、さらにそれらを拡大していくべきであろう。また、仮に改革会議と同様に公益法人制度をモデルとし、評議員会の改革の切り札にするという議論になるならば、公益法人や社会福祉法人の関係者からもその経験や実情を聴取すべきであろう。

(3)また、教育という百年の大計を適切に立てる視点に立って、特別委員会においては拙速な議論を避け、丁寧な議論を要望したい。特別委員会の現在判明しているスケジュールでは3回の会議を予定しているようであるが、根本的な議論をするにいささか短期間すぎるのではないだろうか。

(4)なお、改革会議の報告では、「規模に応じた取扱い」がガバナンスに限り示されているが、このような細かい配慮が必要であり、一律の適用は小規模法人の疲弊を招くものであって、百害あって一利もない。この点については、公益法人制度改革の失敗例に見習ってほしいものである。また、学校法人のそれぞれの目的にも配慮した取り扱いも考慮されるべきであろう。

(5)学校法人制度の改革は、検討時期が他の公益法人制度と比べて遅れたことから、その結果最新のモデルとなって他の非営利法人制度全体に影響を及ぼす可能性がある。その意味からも、慎重かつ深く検討され、その模範となるような形が生まれることを、同じ公益を追求する法人として、心から期待したい。

以上